中部経典『大牧牛者経』

中部経典の第33は、『大牧牛者経』です。

 

この牧牛者の喩えは大変面白いのですが、マニアックすぎて最初に説明がないとその喩えの巧みさがわかりません。

 

ダメな牧牛者、つまり牝牛から乳を充分に取れず、牛を増やすこともできない牧牛者の特徴を11個挙げます。

どれもマニアックすぎて、聞いただけではわかりません。

 

1、形を知らない

 

註によると、自分の牛の数や色、形を知らないということのようです。

自分の牛の頭数を把握してない。白い牛が何頭で赤い牛が何頭ということも把握してない、という意味らしいです。

 

2、特徴に巧みでない

 

牝牛には何か印がつけられているようで、そのマークのことを知らない、と言う意味のようです。

 

3、虫の卵を駆除しない

 

牛の体内で繁殖する虫の卵を駆除しないと、病気になり、乳が出なくなり、死ぬこともあるそうです。

 

4、傷を覆わない

 

牛の傷を放置していると、病気になり、乳が出なくなり、死ぬこともあるということ。

 

5、煙を起こさない

 

牛舎で、煙を起こさなければ、牛が蚊などに悩まされ睡眠不足になり衰弱してしまう。

 

6、渡し場を知らない

 

渡し場の状況を知らなければ、牝牛を渡らせるときに、岩石などを踏んで足を折ったりするし、鰐に襲われたりする。

 

7、飲んでることを知らない

 

この牛は、水を飲む必要がある、飲む必要がない、ということを知らない。

 

8、道路を知らない

 

この道は安全か、盗賊や虎などがいて危険か、あついはでこぼこ道で危険か、ということを知らない。

 

9、牧草地に巧みでない

 

牧草地は牛が食べてから5日か7日しなければ青草が成長しないので、どの牧草地はいつ牛が通ったかを常に把握しておく必要がある。

 

10、余分を残さず乳を搾っている

 

仔牛が飲む乳のことを考えずに、すべての乳を搾ってしまうと、母牛は仔牛が心配で乳が出なくなってしまう。

 

11、かの父牛や首領牛である牡牛たちを充分に尊重しない

 

ダメな牧牛者は乳が出る牝牛ばかりを尊重して群れを守る牡牛を尊重しないので、牡牛は群れを守らなくなる。

 

 

 

さて、以上が、ダメな牧牛者の11の特徴です。

 

ちょうど、このように、これらの11の法を備えている比丘は、法において広大に到達することができません。

 

1、形を知らない

 

『およそ色という色は、すべて四大要素と四大要素を取る色からなる』ということを知らない。

 

2、特徴に巧みでない

 

『愚者は業を特徴とし、賢者は業を特徴とする』ということを知らない。

だから、愚者を避けることができない。

 

3、虫の卵を駆除しない

 

つぎつぎに生じている悪しき不善の法を除去しない。

 

4、傷を覆わない

 

眼によって色を見る場合、その外相を捉え、その細相を捉えます。

この眼の感官を防護しないで住むならば、もろもろの悪しき不善の法が、貪欲として憂いとして、流れ込むことになります。

眼・耳・鼻・舌・身・意による色・声・香・味・触・法すべてそうです。

 

5、煙を起こさない

 

その比丘は、学んでいるとおりに、法を広く他のものたちに説くことがない。

 

6、渡し場を知らない

 

その比丘は、多聞の比丘に『この意味は何ですか?』と充分に問うことがない。

だから疑いを除去することができない。これを渡し場を知らないという。

 

7、飲んでいることを知らない

 

如来によって法が説かれたとき、法の歓び、満足を得ない。

 

8、道路を知らない

 

八正道を知らない。

 

9、牧草地に巧みではない

 

四念処を知らない。

 

10、余分を残さず乳を搾っている

 

信者である資産家たちが、衣・食など『必要なだけどうぞ』と言うときに、受け取る適量を知らない。

 

11、長老たちを充分に尊重しない

 

長老たちに、慈しみのある、身・口・意の行為をしない。

 

 

そして、これらの反対の11の法をそなえている比丘は法において増大や広大に到達できます。