中部経典の第18は、『蜜玉経』です。
この経典は、仏陀が『この法門を〈蜜玉の法門〉として受け止めなさい』と言ったとあります。
蜜玉とは、蜜と砂糖で作られたお菓子ということです。
現代の感覚では、コンビニで100円あれば買えるようなものですが、古代の世界はそこに降り立った感覚で読まなくてはいけません。
古代の世界において、蜜や砂糖や米や牛乳がいかに貴重品であったかを知らなければ、原始仏典の世界は感じ取れないでしょう。
たとえば、スジャーターが仏陀に乳粥を差し上げる場面があります。
これを仏教解説書では、『貧しい村娘のスジャーターが乳粥のような貧しい食べ物を釈尊に差し上げた。』というように解説しているものがあります。
とんでもないです。
その当時、米と牛乳と砂糖(あるいは蜜)でできた乳粥は極めて貴重な食べ物だったのです。
貧しい村娘が提供できる食べ物とは思えません。
事実、スジャーターは、村長の娘、長者の娘と書かれています。
仏陀の父親が『浄飯王』とわざわざ呼ばれていたのは、白米のような貴重なものを多く所有する国の王であったからです。
人類の歴史を見ると、ほとんどの時代、ほとんどの地域において、米、牛乳、砂糖、蜜は極めて貴重で得難いものであったのです。
現代の日本の感覚を持ち込むと全くの的外れになることでしょう。
というわけで、蜜玉の法門は極めて価値の高い法門なのでしょう。
こころして読んでいかなければなりません。
仏陀は言います。
人に妄執想の諸部分が起こる根拠があるとき、
もしここに歓喜すべきもの、歓迎すべきもの、愛着すべきものがなければ、
これこそ、もろもろの貪という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの瞋という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの見という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの疑という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの慢という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの有貪という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、もろもろの無明という潜在煩悩の終わりです。
これこそ、棒を取ること、刀を取ること、言い争い、論争、口論、喧嘩、中傷、虚言の終わりです。
ここには、これら悪しき不善の法が残りなく滅します。
この言葉につき、マハーカッチャーナ尊者が詳しく解説し、仏陀もそれを認めたものが次の言葉です。
眼と色を縁として、眼識が生じます。
三者(眼・色・識)の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の眼に知られるもろもろの色について、妄執想の諸部分が起こります。
耳と声を縁として、耳識が生じます。
三者の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の耳に知られるもろもろの声について、妄執想の諸部分が起こります。
鼻と香を縁として、鼻識が生じます。
三者の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の鼻に知られるもろもろの香について、妄執想の諸部分が起こります。
舌と味を縁として、舌識が生じます。
三者の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の舌に知られるもろもろの味について、妄執想の諸部分が起こります。
身と触を縁として、身識が生じます。
三者の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の身に知られるもろもろの触について、妄執想の諸部分が起こります。
意と法を縁として、意識が生じます。
三者の和合が触です。
触を縁として受が生じます。
感受するものを想念します。
想念するものを尋思します。
尋思するものを妄執します。
それより妄執する人に、過去・未来・現在の意に知られるもろもろの法について、妄執想の諸部分が起こります。
ここで、マハーカッチャーナ尊者は、『妄執想の諸部分が起こる根拠』について詳しく解説しています。
そして、この妄執想が起こる過程において、『歓喜すべきもの、歓迎すべきもの、愛着すべきもの』がなければ、『悪しき不善の法が残りなく滅します』ということです。
『歓喜すべきもの』とは、「私が」「私のもの」と歓喜すべきものという意味です。
すなわち
触(三者の和合)⇒受⇒想念⇒尋思⇒妄執
の過程において、自己同化、感情移入がなければ、すべての不善の法は残りなく滅するということです。