私は、『天上天下唯我独尊』の伝説は、仏陀が成道してから初めて遇ったウパカに対して答えたときの偈から来ていると思っています。
【われは一切勝者、一切知者である。
一切の法のために縛せられず、すべてを捨てて、渇愛尽きて解脱した。
みずから覚りて誰をか師といおう。
われには師もない。等しい者もない。
この世にはわれに比すべき者はない。
ただひとりなる正等覚者にして、清く涼やかなる涅槃を得たのである。】
この【この世にはわれに比すべき者はない】が
【天上天下唯我独尊】の伝説になったと見ています。
仏陀の死後、急速に、仏陀の神格化や他の教えとの優位性、独自性の強調が進んでいきました。
しかし、歴史上の仏陀は、ウパカの『師は誰か』という質問への答えとして、『私には師はなく等しい者もない。無上の悟りを開いたのだ。』と言ったのです。
そして後世、仏陀が生まれた直後に『天上天下唯我独尊』と宣言したという伝説ができていきます。
質問の答えとしての偈の一部だけを切り取って、生まれてすぐ『天下で唯、我だけが尊い』と宣言したことになりました。
仏教なるものができていく過程において、このように歴史上の仏陀の真意とは変質していくことが起きたと思っています。
というのは、ウパカとの対話には続きがあります。
ウパカが仏陀にこう問います。
『尊者よ、あなたは何によって、自ら一切勝者であると認めるのであるか?』
仏陀は
『もろもろの悪しき法に勝てるが故に
われは勝てる者と称するのである。
なんじ、もろもろの煩悩を滅ぼさば
われとおなじく勝者と称するがよい。』
と答えます。
仏陀の真意、そして仏陀の教えの本質は、
この仏陀が言った言葉にこそ現れており、
煩悩を滅すれば自分と同じ勝者なのだ、ということです。
後世にどんどん進んでいった、仏陀の神格化、特別化は
仏陀の真意から遠ざけてしまうものだと考えています。